「お邪魔しまーす」

玄関から聞こえる声に、必要以上に体は反応する。これじゃあまるで乙女じゃん、俺。いい年したおっさんなのに。足を机の上にのせ、読んでいたジャンプを閉じる。手に持ったまま、ソファーのほうへ急ぎながら移動する。なるべく音を立てずに。ソファーに横になり、ジャンプを持つ手を上にあげる。もし、が長居したときも、最初からここにいれば移動せずに済む。

「あれ?新八君と神楽ちゃんは?」
「あー、あれだよ。散歩に行った。すぐ帰ってくるぜ」

ラッキーなことに邪魔者はいない。いや、別に邪魔をされるようなことをするつもりじゃないんだけどね。はそっかと返事をし、手に持っていたコンビニの袋をソファーの前にあるテーブルに置く。うっすら透けて見えるのは、何かカップのもの。これはもしかして、銀さんの大好物の一つじゃね?

「せっかく新八君達の分もプリン買ってきたのに」

プリンという単語に、ジャンプを読むのをやめて体を起こす。は袋の中からプリンとスプーンを4つ出し、一つは俺の前に置く。あいつらの分も、と言っていたから、二つは神楽と新八の分か。あと一つは自分も食べるつもりなのかもしれない。

「しょうがねぇなぁ。あいつらの分も食ってやるか」
「だーめ。銀さんにはサービスして、2個にしたんだよ?」
「え、お前の分じゃねえの?」
「別に、プリンがないと生きられない!っていう女じゃないし」

確かに、は普通の女の子のように、特別甘い物が好きってわけではない。寧ろ、俺の方が甘い物好きっていうか。気をきかせてくれるのは嬉しい。すっげー嬉しい。ていうか、だーめって言い方がちょっと可愛い。ちょっとっていうかすっげー可愛い。嬉しくて可愛いんだけど、一人で食べるのは寂しいんですけど。

「一緒に食べようぜ?銀さん1個で我慢するしー」
「気遣わなくていいって。一人で食べるのが寂しいなら、神楽ちゃん達帰ってくるの待てばいいじゃない」
「そーじゃなくてよぉ」
「じゃーなんですか?」
「…だいつき…おまえ…と、いっしょ…に」

言いたい台詞があまりにも純情すぎて、大きい声で言えない。声は小さいし噛んじゃうし、何言ってるか分かんない。これじゃあ格好悪すぎ。はきょとんとした顔をしている。多分聞こえていないんだろう。銀さん頑張れ!ここが男の見せ所ってものよ。今日こそ格好いい俺を見せて、に意識してもらおうじゃないの。

「銀さん、どうしたの?」
「だからよー。大好きなお前と一緒に、大好きなプリンを食いてぇのよ」

もう言ったものは仕方ない。ドキドキと心臓を鳴らしながら、真っ直ぐを見つめる。俺の言葉に驚いたのか、きょとんとしている。と、思ったら。見る見る内に、顔が真っ赤に。もしかして胸キュンしちゃった?やばいんじゃない、これ。銀さん、のハートを射抜いちゃったかも。思わず口元が緩みそうになるのを我慢しながら、真剣な顔を崩さないようにする。さぁ、どうでるか。楽しみに反応を待っていると、はにっこりと余裕な笑みを見せた。

「私も大好き」
「…え?ちょ、まじで」
「大好き、そのプリンが」
「さっきそんなに好きじゃねえって言ってたでしょうが!!」

さっきまでのちょっと純情な感じの雰囲気はどこかへ行ってしまい、まんまとのペースにはまってしまった。こいつのほうが一枚上手かもしれない。今度こそは格好良くハートを射抜いてみせる。さて、どんな方法にしようか。作戦を立てながら、プリンをゆっくりと一口ずつ噛みしめた。プリンの味は、いつも通り。


しみのひとつ

それはとても甘かった

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