何て清々しいのだろう。生まれ変わった気分だわ。ただ髪を切っただけなんだけれどね。
邪魔だったから切った、という物臭な理由は忘れよう。
街を歩いてるときに知っている人に会えば、似合ってるよと声を掛けられる。
照れながらそれに答えるけど、やっぱりあの人から言われたい。
そんな訳で、キョロキョロとしながら町を歩く。
ラッキーなことに、遠くに探している人物を見つけた。私は軽い足取りで、距離を縮めていく。
自分から話しかけるのは、プライドが許さない。
あっちから話しかけてもらおう。あくまでも自然に通りすぎて行くところを、話しかけられる。
作戦はバッチリだ。もし気付かれなかったら…、気付かれるまでうろうろするつもり。
もしものときの対策も万全。パトカーから少し離れたところを、通り過ぎようとする。
あくまでも、偶然って設定だから、あいつの顔は見たりしない。気づかれるよう、少し歩くスピードを緩める。
「」
作戦は成功だ!でも、まだ気を抜くのは早い。振り返れば、総悟は手招きをしている。
待ってました!的な雰囲気を悟られぬように、私はゆっくり近付く。
「何?」
総悟は近付いてきた私の顔をまじまじと見る。顎に手を添えたりして、何やら考え始めた。
そんな顔もかっこいい。いや、そうじゃなくて!もしかして、髪型が可笑しいのかな。
「俺は、を振った覚えはねぇぜィ」
「は?」
何を言うかと思えば、訳の分からないことを言い出した。意味が分からずに、総悟を直視する。
「失恋したら髪切るってよく言うじゃねェか」
「まだ告白してねぇよ!っていうか迷信だから、それ!」
褒めてくれたら、なんて儚い夢は砕け散った。所詮、相手が総悟だと難しいよ。
ちょっと期待した自分が馬鹿みたい。勢いよくツッコミしたら、余計に虚しくなった。
反対に、総悟は悪い笑みを浮かべている。
「まだしてねェか」
さっきの総悟の言葉を思い出す。俺は振った覚えはないって、どうして俺って限定してたんだろう。
普通だったら、誰かに振られたのかって冗談言いそうだけど。
え?まさかね。そんなことないよね!もしかしたら、もしかする?
しかも、馬鹿なことに私は、俺ってところを否定せずに。
寧ろ、まだ告白してないとか言って、自ら宣言したようなもんじゃない!
考えれば考えるほど、顔は赤くなっていく。(自分じゃ見えないけど)
まだ分からない、冗談の可能性だって充分にある。
「ってことは、近いうちにしてくれるんですかィ?」
私が慌てているのが面白いのか、総悟はSのオーラ全開してるんですけど。何を
返せばいいのか分からなくて下を向くと、総悟の手が伸びてきた。いきなりだっ
たので、動いて逃げることもできなかった。一瞬怯えたけど、驚きというか緊張で
何が何だか分かんなくなった。総悟が私の肩に手を置いて、耳元に頭を近づけたから。少し
でも動いちゃいけないような気がして、じっとしていた。
「待ってるぜィ、明日辺りにでも」
呆気にとられる私を見て、総悟は笑った。やっぱり、その笑った顔もかっこいい
。一言だけ残して私の元を離れ、パトカーのほうへ歩き出す。ドアに手をかけて
、何かを思い出したようにこちらを振り返る。
「似合ってますぜィ」
多分真っ赤な顔をしてる私に、更にニヤリと追い討ち。いつもみたいに、すらすらと言葉
がでてこない。必死の思いで一言絞り出す。
「…知ってるよ」
返事を聞いた総悟は、茹でタコみたいに真っ赤でィとか言いながらパトカーに乗
った。でも今の私には、聞こえない。そんな嫌味を気にする余裕がなかった。パトカーが走り去るのを呆然と見届けた後、私は相談をしにお妙さんの家に走った。何をって、告白の仕方を。