「…バレンタイン?」
「そ。は誰にもやんねぇのか?」
「面倒臭いから忘れてたよ。屯所に男が何人いると思ってるの」
「義理チョコじゃなくて、本命チョコのことでィ」
総悟が私に恋愛ネタを振るなんて珍しい。興味無さそうな話なのに。私達は見廻りの当番で、並んでゆっくり歩いている。もうすぐバレンタインということで、街のあちこちでバレンタインのことばかり目につく。バレンタインに興味が無くても、その話題しか見つからないのだろう。
「別に作る気しないもん。総悟はチョコとか欲しいの?」
「いらねェ。毎年食いきれねぇほどもらうんでねィ」
「ハイハイ、モテる男はツラいでしょね」
確かに本人の言う通り、総悟は毎年凄い数のチョコをもらっている。私の嫌味にムカついたのか、総悟は私の頭を叩いた。女の私に手加減無しで。
「痛!ちょっとは手加減してよ……」
「どこの誰かも知らない女にもらっても嬉しくねぇ」
「山崎が聞いたら泣くね。じゃあ今年は好きな人からもらえるよう頑張ってくだ
さい」
痛い頭を摩りながら、歩き続ける。たんこぶはできていないので安心する。嫌味ではなく素直に応援したというのに、隣を歩く総悟の顔はブスッとしたままだ。何故機嫌が悪いのか分からない。
「好きな女は面倒臭がってチョコ作らないやつでねィ」
「あらら、それは残念。総悟の気持ちに気付いてないんじゃない?」
「あぁ、全然気付きやしねぇ」
「それって意識されてないんだよ」
「じゃあ意識されるよう、積極的になるしかねぇな」
「頑張れ」
総悟から積極的になられたら、どうなることやら。かなり苛められるに違いない。その対象となる見知らぬ人に同情する。歩いていると自然に揺れるはずの手が、いきなり動きが止まる。止まるというか、止められる。恐る恐る視線を動かすと、私の小さな手は拘束されていた。総悟は私を見て、ニヤリと笑った。
「何すんの?」
「言ったじゃねぇか。積極的になるってなァ」
「は?相手間違ってるけど」
「いや、間違ってねぇな。お前は鈍すぎなんでィ」
総悟の言動に、私の頭は混乱してきた。今までの話は、総悟が私を好きだったということ?本気で私を叩くくせに。あ、でも総悟はドSだし。って何納得してるんだ私。落ち着こうとしても、上手くいかない。総悟はこちらを見ているが、私は総悟のほうを見れない。待て待て、からかってるだけだ。
「笑えない冗談止めてよ…」
「何が冗談でィ。気付かないお前が悪いんでさぁ」
付き合いが長いからこそ分かる。ふざけてばかりの総悟の顔は、いつもと少し違った。どこの誰かに同情してる場合じゃない。混乱していると、無意識に足は止まった。考えるのが精一杯で、歩くことを忘れてしまったらしい。
「そう焦ることはないですゼ」
「その満ち溢れた自信はどこからでてくるわけ…」
私は総悟に振り回されている。なんだか真剣に悩むのもバカらしくて、ため息をついてしまう。そんな私を見て総悟は楽しそうに笑っていた。むかつくけど、この笑顔好きなんだよな。
「お前はもう俺のこと好きだろーな」
行くぞと総悟が言い、再び歩き始める私たち。繋がれたままの手を見て、私は気づいた。そうか、一度もこの手を離そうって思わなかったや。私が気づくよりも先に、総悟は私の気持ちに気づいてたのか。ずっと好きだったんだな、総悟のこと。
あなたのために
すでに出来上がった、この気持ち